公開講演会 「減災社会を築く~人間のあいだの関係の構築~」

堤 麻子 さん(社会学部現代文化学科3年次)

2015/01/21

研究活動と教授陣

OVERVIEW

ESD研究所、立教SFR重点領域プロジェクト研究主催 講演会

日時 2014年12月17日(水)18:30~20:30
会場 池袋キャンパス 14号館4階 D401教室
講演者 大石 時雄 氏(いわき芸術文化交流館アリオス支配人)
【略歴】
1959年福岡県久留米市生まれ。大阪芸術大学芸術学部舞台芸術学科演技演出専攻を卒業。広告代理店を退職後、伊丹市立演劇ホールの設立に参加。パナソニック・グローブ座(現・東京グローブ座)の制作担当を経て、世田谷パブリックシアター、可児市文化創造センター、いわき芸術文化交流館アリオスの設立に参加。
 

レポート

東日本大震災から3年9カ月。日本中が混乱に陥った中、2008年の開館当初より一貫して地域に根差した運営方針のもと、震災当日から2カ月近く避難所となった施設があります。それは大石時雄氏が支配人を務める公立文化施設、いわき芸術文化交流館アリオス(いわきアリオス)です。本講演会のサブタイトルである「人間のあいだの関係の構築」は、いわきアリオスの運営方針の1つです。大石氏は、地域コミュニティの形成が災害や事故のみならず日本を取り巻くさまざまな社会問題のリスクを軽減すると主張しました。

まず初めに、先日衆議院選挙が行われたこともあり、政治に関する話になりました。大石氏は早速「日本に国会議員はいらない」と斬新な考えを述べられました。大石氏が考えるのは、国会議員という枠組みを作らずに、都道府県知事を衆議院議員、市町村長を参議院議員として、国会が開かれていないときは各々の都道府県や市町村へ戻るという案です。そうすることで地元の人々の顔や暮らしぶりが分かるというものです。それにより、「投票率」という数字ではなく、シングルマザーや仮設住宅に住む人など、さまざまな状況に置かれた個々人に寄り添ってほしい、というのが大石氏の願いです。また、大石氏はこれに関連して、原発問題や沖縄の基地問題を引き合いに出しながら、政府は国民の声にもっと耳を傾けてほしいと述べました。
次に、国内の人口の減少がテーマになりました。大石氏は人口減少それ自体を問題視はしていません。人口の減少をはじめ、高齢化、経済の縮小など、今日日本が抱える社会問題に対応できるシステムが無いことに疑問を感じているのです。例えば、県民所得が47都道府県中最下位(2008年度まで)である沖縄県は、出生率においては37年連続首位だそうです。これは景気の良さと人口は関係ないことの証明とも言えそうですが、注目すべきはなぜ沖縄の出生率が高いのか、その理由です。沖縄では子どもを母親一人で育てるのではなく、島民全員で育てるという意識が根付いているそうです。また、温暖な気候と豊かな自然に恵まれていて暮らしやすいのも理由の一つではないでしょうか。大石氏によると、いわき市のとある住民が「いわきは田舎で、何もなくてつまらない」とこぼしたそうです。しかし、「何もない田舎」という場所はないはずで、その土地の良さが必ずあるはずです。いわき市ならば「いわき市」という場所を、まずはよく知るべきなのではないかと思います。大石氏はこのテーマの最後に、日本は人口が減ることを受け入れ、その在り方に倣って社会をモデルチェンジすべきだという主張で締めくくりました。
その後、大石氏はいわきアリオスの運営方針や活動の紹介を交えつつ、本講演全体の話を踏まえた、減災社会を目指すための地域コミュニティの在り方をまとめました。いわきアリオスは「音楽、演劇等の舞台芸術に関するアートセンター」だと運営理念に記されています。私には初め、舞台芸術と地域コミュニティは結びつきにくいように思えました。しかし、演劇というのは人と人の関係を築くことであり、劇場は人が集まる場所です。つまり、地域住民が集まる「いわき芸術文化交流館アリオス」は絶好の地域コミュニティ形成の場となるのだと気付かされました。いわきアリオスで実際に行われる活動のひとつに「モヤモヤ会議」というものがあります。結果を重視しないためモヤモヤとすることもあるが、話し合うことで信頼性が向上することを狙いとした会議です。また、アリオスの防災マニュアルを話し合いによって作ったこともあるそうですが、大石氏は、マニュアルに関して「忘れるように」と言ったそうです。話し合うことで防災意識が高まるので、最終的に作り上げたマニュアルの出来栄えはさほど意味のないことで、日ごろから地域住民同士で交流を深めておけば、被害の最小化を目指せるのではないか、そしてそれを実行するためにいわきアリオスを有効活用したいと大石氏はおっしゃいました。
今回の講演で最も強く感じたことは、どんなに大きく深刻な社会問題にぶつかっても、地域コミュニティが緊密であればリスクが軽減されるのであり、小さなコミュニティでも解決につながる糸口を自分たちで見つける必要性があるのだと思います。さらに理想を追えば、地域コミュニティで「問題を解決」するに留まらず、未然に「問題を防止」することが求められるでしょう。しかし、今のままの地域コミュニティが脆弱(ぜいじゃく)な日本では、それは難しいでしょう。いわきアリオスのような施設を増やしたり、もっと小さなコミュニティ、例えば家族との関係を濃くしたり、といった行動が理想を現実にする一歩となるのではないでしょうか。大石氏の講演を聞いて、私は改めて身の回りにあるコミュニティを見つめ直そうと思いました。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

研究活動と教授陣

2024/10/02

インバウンド観光の今とこれから

観光学部 羽生 冬佳教授

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。