インバウンド観光の今とこれから
観光学部 羽生 冬佳教授
2024/10/02
研究活動と教授陣
OVERVIEW
コロナ禍で落ち込んだインバウンド(訪日外国人旅行・訪日旅行)需要がV字回復する一方で、大きな課題とされるのが「オーバーツーリズム」です。インバウンド観光の現状と問題点、これからの観光の在り方について、観光学部観光学科の羽生冬佳教授に伺いました。
インバウンド観光の実情
コロナ禍で大幅に減少した訪日外国人旅行者数は、2023年に急速に回復し、ピーク時の水準に迫る勢いです。日本は、人口減少に伴い国内の観光需要も減っていくことが予想される中、2003年に政府は「観光立国」を掲げ、インバウンド拡大に力を注いできました。しかし、地域によって比率は変化しますが、国内における旅行消費額の約8割はいまだに日本人が支えています。単純にターゲットをインバウンドに絞ったサービスを展開すると、日本人旅行者に敬遠される恐れもあり、各地域はそのバランスを探っているのが現状です。
出典:法務省「出入国管理統計統計表」および日本政府観光局(JNTO)「年別訪日外客数、出国日本人数の推移」
また、一口にインバウンドと言っても、出身国・地域や世代、個人の嗜好 により観光行動は多種多様であることも忘れてはなりません。インバウンドの実態を把握したり、集客に向けた施策を検討したりする上では、より細かな属性分類やターゲット設定が必要だと言えるでしょう。
何が「オーバー」しているのか
インバウンドも含め、現代の観光行動がひと昔前と異なるのは、SNSが大きく関わっている点です。個人の発信が拡散されたことで「コンビニの屋根の上に富士山が乗った写真が撮れるスポット」に外国人旅行者が押し掛けたように、従来のメディアでは紹介しなかった場所が、一躍観光名所になるケースも少なくありません。
こうした現象も加わり、コロナ禍前にも問題視されていた、旅行者の増加が住民の暮らしや環境を脅かす「オーバーツーリズム」が再び顕在化し始めました。「観光公害」自体は以前からある課題で、「観光がもたらすメリットのために、不利益を受け入れるのか」は、簡単に答えが出せる問いではありません。ただ、一つ言えるのは、「オーバー」という言葉が問題の本質を見えにくくしているということです。「インフラの処理能力を超える」場合は「量」の問題ですが、「大声で騒ぐ」「許可なく立ち入る」などは「迷惑行為」です。「何が、どのように過剰なのか」を丁寧に分析しなければ、解決の糸口は見えてこないと考えています。
こうした現象も加わり、コロナ禍前にも問題視されていた、旅行者の増加が住民の暮らしや環境を脅かす「オーバーツーリズム」が再び顕在化し始めました。「観光公害」自体は以前からある課題で、「観光がもたらすメリットのために、不利益を受け入れるのか」は、簡単に答えが出せる問いではありません。ただ、一つ言えるのは、「オーバー」という言葉が問題の本質を見えにくくしているということです。「インフラの処理能力を超える」場合は「量」の問題ですが、「大声で騒ぐ」「許可なく立ち入る」などは「迷惑行為」です。「何が、どのように過剰なのか」を丁寧に分析しなければ、解決の糸口は見えてこないと考えています。
「地元」と「観光」のバランス
観光客であふれる忍野八海(山梨県南都留郡忍野村)
これからの観光のキーワードは、「持続可能性」でしょう。インバウンドをはじめ旅行者のみをターゲットにすると、一時的に利益は上がるものの、コロナ禍で観光業が苦戦したようにリスクが伴います。理想は「地元による消費」と「観光による消費」がうまく補完し合うこと。コロナ禍で近距離旅行の「マイクロツーリズム※」も注目されましたが、近場の人々と遠方からの旅行者、双方のニーズに応える戦略が求められていると思います。
観光は自治体や住民、宿泊・飲食業、観光開発業など多様な主体が関わるため、地域が同じ方向を向くには一定のマネジメントが必要で、変革を起こすことは簡単ではありません。しかし、外から人が入ってくることは確実に地域の活力になります。持続可能な観光の形とその具体化に向けた方策を、今後も探り続けたいと思います。
※マイクロツーリズム:コロナ禍に感染防止の観点で広がった、自宅から1~2時間程度の移動圏内に赴く近距離旅行。
観光は自治体や住民、宿泊・飲食業、観光開発業など多様な主体が関わるため、地域が同じ方向を向くには一定のマネジメントが必要で、変革を起こすことは簡単ではありません。しかし、外から人が入ってくることは確実に地域の活力になります。持続可能な観光の形とその具体化に向けた方策を、今後も探り続けたいと思います。
※マイクロツーリズム:コロナ禍に感染防止の観点で広がった、自宅から1~2時間程度の移動圏内に赴く近距離旅行。
羽生教授の3つの視点
- 国内の旅行消費額においてインバウンドの比率はまだ高くない
- 「オーバーツーリズム」の中身を丁寧に検証する必要がある
- 「地元による消費」と「観光による消費」が補完し合う状態が理想
※本記事は季刊「立教」269号(2024年7月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点(2024年6月取材)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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プロフィール
PROFILE
羽生 冬佳
観光学科 教授
東京工業大学大学院修士課程修了。博士(工学)。(財)日本交通公社、国土交通省国土技術政策総合研究所、筑波大学等を経て、2012年立教大学に着任、2015年より現職。観光地化の過程や地域社会への影響、観光資源の管理および活用方法について研究。
羽生 冬佳教授の研究者情報