身体表現とコミュニケーション
現代心理学部 砂連尾 理特任教授
2021/12/20
研究活動と教授陣
OVERVIEW
新型コロナウイルス感染症の影響などに伴い、コミュニケーションのあり方が変容する昨今。ダンスを通して新たな可能性を探求する現代心理学部の砂連尾理先生に、身体表現を伴う交流やオンラインでの関わり合いについて伺いました。
身体表現を通じて他者と関わる
東日本大震災の被災者による体験談をダンスに転換した舞台作品「猿とモルターレ」。 写真:松見拓也
長年、バレエやモダンダンスに取り組む中で、私が大切にしてきたテーマは「他者と関わること」。例えば、一緒に踊った時に「この人は自分と同じような感覚を持っている」と感じることがあります。これは、言葉とは異なる種類の他者とのコミュニケーションが、身体表現を通じて可能になるからだと考えています。
立教大学の授業でも身体を動かすワークショップを行っており、身体を通して自己と他者を知り、世界の多様性を理解することを大きな目的としています。
立教大学の授業でも身体を動かすワークショップを行っており、身体を通して自己と他者を知り、世界の多様性を理解することを大きな目的としています。
現代心理学研究科2年次の石田智哉さん(写真右。2020年現代心理学部卒業)が初監督を務めた卒業制作『へんしんっ!』の1コマ。車椅子に乗る石田さんは、砂連尾特任教授(写真左)の呼び掛けによりダンスを初体験。同作は第42回ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2020でグランプリを受賞。全国順次公開中。©2020 Tomoya Ishida
10年ほど前から新たな活動にチャレンジしてきました。一つが東日本大震災で被災された方との対話をダンスに転換する試み。そこから、言葉や映像とは異なる形で震災を継承することができると感じました。もう一つが、しょうがい者や高齢者といった方と共に創り上げるダンス。一緒に踊ることで相手からエネルギーを受け取ると同時に、「このような目線で生きているのか」といった発見がありました。一方で、当事者が利用する施設の職員から聞いたのは「普段は険しい表情の利用者さんが、ダンスの時は柔和な顔つきになる」という話。身体を通した関わり合いが、お互いをポジティブな方向に運んでくれると実感した出来事でした。
ダンスは主に舞台芸術として発展してきましたが、その根源には病気の治癒、雨乞いなど、祈りや願いとして誰かに寄り添う役割があったといわれています。現代でも医師やケアワーカーなどが担えない領域で、ダンスの可能性があるのではないかと考えています。
ダンスは主に舞台芸術として発展してきましたが、その根源には病気の治癒、雨乞いなど、祈りや願いとして誰かに寄り添う役割があったといわれています。現代でも医師やケアワーカーなどが担えない領域で、ダンスの可能性があるのではないかと考えています。
オンライン化の中で見えた可能性
コロナ禍以降、人と人との対面や接触が制限される社会になりました。身体的な接触を含むダンスをなりわいとする私にとって大きな困難ですが、新たな可能性を見いだす出来事がありました。それは他大学の先生との共同研究で、分身ロボット「OriHime※1」を介して遠く離れた場所にいる人と交流したこと。カメラ・マイク・スピーカーを搭載した分身ロボットを通して、私が公園を散歩して落ち葉に触れたり、湧き水を飲んだりした感触を伝えたのです。異なる空間にいても身体の感覚を伝達することはできると気付いた瞬間でした。
大学の授業でも同じような試みを行いました。学生が二人一組となり、一人は屋外で植物などに触れ、その感触を教室内にいるもう一人にオンラインの画面を通して身体表現で伝えるのです。そこには、懸命に伝えよう、理解しようと、アクションを大きくしたり言葉を尽くしたりする姿がありました。離れているからこそお互いに工夫するのだと実感すると同時に、これこそが身体表現の源だと感じました。
ICTの発達やオンライン化の進展は、直接的な触れ合いの意味を考えさせられるきっかけとなりました。また、オンラインの「伝わりづらさ」を感じる人がいる一方で、「オンラインだからこそ場に参加しやすい」という人もいます。そうしたことに想像力を働かせながら、対面とオンラインの両方に身体の可能性を開いてほしいと思います。
※1 OriHime(オリヒメ):入院やしょうがい、単身赴任などによる「移動の制約」を克服し、「その場にいる」ようなコミュニケーションを実現するロボット。オリィ研究所が開発。
大学の授業でも同じような試みを行いました。学生が二人一組となり、一人は屋外で植物などに触れ、その感触を教室内にいるもう一人にオンラインの画面を通して身体表現で伝えるのです。そこには、懸命に伝えよう、理解しようと、アクションを大きくしたり言葉を尽くしたりする姿がありました。離れているからこそお互いに工夫するのだと実感すると同時に、これこそが身体表現の源だと感じました。
ICTの発達やオンライン化の進展は、直接的な触れ合いの意味を考えさせられるきっかけとなりました。また、オンラインの「伝わりづらさ」を感じる人がいる一方で、「オンラインだからこそ場に参加しやすい」という人もいます。そうしたことに想像力を働かせながら、対面とオンラインの両方に身体の可能性を開いてほしいと思います。
※1 OriHime(オリヒメ):入院やしょうがい、単身赴任などによる「移動の制約」を克服し、「その場にいる」ようなコミュニケーションを実現するロボット。オリィ研究所が開発。
砂連尾特任教授の3つの視点
- 身体表現を通じて言葉とは異なる種類のコミュニケーションが可能
- 離れているからこそ伝えよう、理解しようと人は工夫する
- 対面とオンラインの両方で身体の可能性を開いてほしい
※本記事は季刊「立教」258号(2021年11月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点(2021年9月取材)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
CATEGORY
このカテゴリの他の記事を見る
研究活動と教授陣
2024/10/02
インバウンド観光の今とこれから
観光学部 羽生 冬佳教授
プロフィール
profile
砂連尾 理
砂連尾 理特任教授の研究者情報