スパコン「富岳」を利用した新型コロナウイルス関連研究
理学部 望月 祐志教授
2020/11/30
研究活動と教授陣
OVERVIEW
世界ランキング4冠(※)を獲得したことで話題となった、スーパーコンピュータ「富岳」。
現在、理化学研究所が文部科学省と連携し、開発中の「富岳」を、新型コロナウイルス対策に関する研究に試行的利用するプロジェクトが進んでいます。その一翼を担う理学部の望月祐志教授に、研究内容や参画の経緯などについて伺いました。
※2020年6月、スーパーコンピュータの国際的な性能ランキング「TOP500」「HPCG」「HPL-AI」「Graph500」において、それぞれ世界第1位を獲得。「富岳」は、2014年開発開始、2020年設置・調整中、2021年度共用開始予定。
新薬の開発につながる原子レベルでの解析
スーパーコンピュータ「富岳」(提供:理化学研究所)
現在、「富岳」を利用した新型コロナウイルス関連の研究には、5つのチームが参画しています。その中で私が参加するチームは「新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算」というテーマで研究に取り組んでいます。対象となる物質は、ウイルスの増殖に関与する酵素「メインプロテアーゼ」と、新型コロナウイルスが人間に感染する際に主要な役割を果たす「スパイクタンパク質」。これらの構造や挙動について、卓越した計算力を持つスーパーコンピュータ(以下、スパコン)を用いて、原子レベルで解析を行っています。後に新薬の開発や既存薬の改良・転用につながる、最も基礎的な部分を担っているテーマだと言えるでしょう。
参画のきっかけとなったのは2020年2月のことです。中国の研究グループが新薬を開発し、それがメインプロテアーゼと結合したときの結晶構造を公表しました。私たちは即座に公開された構造データを入手し、別のスパコンを使って、詳細な相互作用解析および論文化を約1カ月で敢行。その結果が国内外で評価され、理化学研究所計算科学研究センターからお声掛けいただいたのです。
参画のきっかけとなったのは2020年2月のことです。中国の研究グループが新薬を開発し、それがメインプロテアーゼと結合したときの結晶構造を公表しました。私たちは即座に公開された構造データを入手し、別のスパコンを使って、詳細な相互作用解析および論文化を約1カ月で敢行。その結果が国内外で評価され、理化学研究所計算科学研究センターからお声掛けいただいたのです。
自ら「富岳」を操作し自作のプログラムを動かす
スパイクタンパク質内部の相互作用エネルギーを、FMO法で定量的に解析し可視化したもの。人間のホスト細胞に結合する際、右側のような構造を取っていることが知られている
計算に用いる手法は「フラグメント分子軌道計算法」(FMO法)と呼ばれるもの。タンパク質のような巨大分子系を小さな単位に分割し、並列計算を高速で行う点が特徴です。そして、私が基幹部分の開発に携わっている「ABINIT-MP」というプログラムを使い、FMO計算のジョブを私自身で「富岳」の上で流しています。「富岳」をはじめとするスパコンはスーパーカーのようなものですが、自らハンドルを握ることで、不具合が発生した際にも速やかな原因の特定と対応が可能となるのです。
実は、このプロジェクトには私の研究室に所属する助教や学生も参加しています。計算の準備や算出したデータの解析、学会発表に使う図表の作成など、彼らの働きが大きな力となっています。
実は、このプロジェクトには私の研究室に所属する助教や学生も参加しています。計算の準備や算出したデータの解析、学会発表に使う図表の作成など、彼らの働きが大きな力となっています。
新型コロナウイルスと「富岳」をどのように見るべきか
プロジェクトに参画して約5カ月が経ったいま、ウイルスのタンパク質の構造や感染する際のメカニズムが明らかになりつつあり、確かな手応えを感じています。新型コロナウイルスは「未知のウイルス」と言われますが、物理化学的には「決して理解不能なものではない」という感じを持っています。
「富岳」に代表されるスパコンは、日常生活から遠い存在であると思われるかもしれません。しかし、コロナ感染の予防対策につながる「飛沫飛散シミュレーション」のように、その計算結果が日常に影響を与える研究もあります。今後、「富岳」を用いた基礎研究はもとより、創薬、新素材開発、飛行機や自動車の性能向上といった産業利用も加速することが見込まれます。私たちの生活に恩恵をもたらす基盤設備として、今後の展開に目を向けていただけたらと思います。
「富岳」に代表されるスパコンは、日常生活から遠い存在であると思われるかもしれません。しかし、コロナ感染の予防対策につながる「飛沫飛散シミュレーション」のように、その計算結果が日常に影響を与える研究もあります。今後、「富岳」を用いた基礎研究はもとより、創薬、新素材開発、飛行機や自動車の性能向上といった産業利用も加速することが見込まれます。私たちの生活に恩恵をもたらす基盤設備として、今後の展開に目を向けていただけたらと思います。
望月教授の3つの視点
- スパコンを利用した新型コロナウイルス内部の構造や挙動の解析が進んでいる
- 新型コロナウイルスは「理解不能なものではない」ことが明らかになりつつある
- 「富岳」は基礎研究の他、創薬や新素材開発といった分野での産業利用の加速が見込まれる
※本記事は季刊「立教」254号(2020年11月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点(2020年8月)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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プロフィール
profile
望月 祐志
理学博士。
日本電気(株)基礎研究所研究員、(財)高度情報科学技術研究機構研究員などを経て、2006年立教大学に着任。2010年より現職。
日本コンピュータ化学会「2019年度学会賞」を受賞。