人間の認知機能は、ストレスに どんな影響を受けますか?

現代心理学部心理学科 認知心理学 浅野 倫子 准教授

2018/05/02

研究活動と教授陣

OVERVIEW

浅野先生の専門である「認知心理学」は、人間の認知機能がテーマ。心理学の中で基礎的な研究分野の一つだ。文部科学省私立大学研究ブランディング事業(以下ブランディング事業)では、ストレスと認知機能の関わりに着眼し、同学科の日髙聡太准教授とのチームで研究を進めている。

浅野 倫子 准教授

「認知機能とは、目の前の事物や自己の状態を把握する働きです。見る、聞く、触る、考える、認識をもとに判断する、記憶するといった、日常生活を支える重要な機能が含まれます。ブランディング事業では、ストレスが溜まった状態で“少しややこしい作業”を行なった場合にどんな影響があるか、その作業が苦手になるのか、スムーズになるのか、といったことを調べています」

ストレスが認知機能におよぼす影響についての研究は、心身の健康へのストレスの影響に比べると、十分とは言い難いのが現況だ。理学部との融合研究であることも加え、この研究で新しい知見を得られる可能性は高い。

「具体的な方法としては、ストレスの度合いの測定と、作業の行いにくさの測定の両方を行い、その2つの関係を見ていきます。ストレスの度合いは、『最近、イライラしていますか?』といった質問で本人の自覚症状を確認するほかに、採取キットで集めた唾液の成分で測ります。ストレスが高いと増えるコルチゾールなど、唾液中の物質の量から測定するわけです。これは理学部との融合研究だから、精密にできることですね」

今回のプロジェクトで使用する唾液の採取キット。研究室の書棚には神経科学の文献も。

生命科学との接点が多い認知心理学。 共同研究の意義は大きいです。

文字の認識の仕方を一貫した研究テーマとして持ち、「色字共感覚」の研究者でもある。

認知心理学では、判断のスピードや正確さ、脳波の測定やMRIを使うなど、科学的な実験による客観的なデータが重視される。さらに、認知機能を支えるのは脳の細胞であることから、生理学、神経科学と重なる領域もあり、もともと理系との接点は多い。

「ストレスが生き物にどういう影響を及ぼすかを知るには、生命科学、心理学の両方のアプローチが必要だと思います。例えば理系のアプローチでは、ショウジョウバエなどを使った実験で、気温の高い環境における免疫細胞の変化など、分子レベルで調べることができます。人間の振る舞いを分子レベルで説明できる段階になるには、なかなか難しいですが、心理学が研究対象とする心理的ストレスにも、そのような基礎的なメカニズムが関与している可能性はあります。生命科学と心理学の研究のすべてを合わせることで、現代のストレス社会に役立つものが見つかるのではないかと予想しています」

複雑な人間の中身を把握するために、 さまざまな実験で緻密なデータを集めます。

今回の研究プロジェクトは、単発の出来事によるものではない、日常的に感じているストレスに注目している。ストレスへの反応の個人差の大きさなど、課題もある。

「それだけに、人間一般の傾向を掴むために多くのデータが必要ですが、心理学は複雑な人間の中身を把握するための知恵を重ねてきた分野で、特に認知心理学は実験の手法をたくさん持っています。その強みを生かし、ストレスが溜まると認知機能が低下し、作業がうまくいかなくなって大きなミスや事故が生じかねないことや、作業効率自体が下がる可能性を科学的に検討し、発信できれば。心身が病気になる以前にも、ストレスにはこれほどの影響があると伝えたいです。逆に、作業の出来具合から自分のストレスをモニタリングし、認識できるようになるかもしれない。研究成果がそうした形で実社会につながる可能性もあります。」

レオ・レオニの絵のマグカップと窓からの眺め。「見る」という認知機能の面白さを語る。

ベーシックな研究の面白さは、 多彩な分野とつながっていけることです。

子どもの頃から「人はどうしてそういう行動をするのか」と、人間観察をするのが好きだった。人間への興味が研究活動全般のベースにある。

「人間の基礎研究は地味に思われがちですが、実はいちばん根幹の部分で社会に役立っていると思います。仕組みがわかれば応用ができるからです。今回の研究で“ストレスとの関わり”という切り口が与えられましたが、他にも高齢者の認知機能、睡眠との関係、人間が使いやすいデザインを探る意味で人間工学とつながるなど、果てしなくテーマがあるんです。人が生きている限り、認知心理学は常に存在する学問なのだと思います。また論文がほとんど英語であるなど、世界を舞台に研究が進展している分野でもあるんですよ。」

プロフィール

Profile

浅野 倫子

現代心理学部心理学科准教授

東京大学大学院人文社会系研究科博士課程で認知心理学を学び、博士(心理学)の学位を取得。博士論文のテーマは、人間が文中の単語を迅速に認識するメカニズムについて。その後、同研究科および玉川大学脳科学研究所、日本学術振興会(慶應義塾大学環境情報学部所属)の研究員として、単語や文の読み、文字に色を感じる「色字共感覚」、乳幼児の言語の発達、色の好みが決まるメカニズムなどの研究に従事。2014年4月より立教大学現代心理学部助教、2018年4月より同准教授となり、これらの研究を発展させている。

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