ESD×地域創生—地域創生に果たす人づくりの役割— 開催レポート
笹川 貴吏子 さん(異文化コミュニケーション研究科博士課程前期課程2年次)
2016/05/06
研究活動と教授陣
OVERVIEW
講演会の様子をお届けします。
主催 | 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「ESDによる地域創生の評価とESD地域創生拠点の形成に関する研究」、ESD研究所主催 |
日時 | 2016年3月5日(土)11:00~17:30 |
会場 | 池袋キャンパス 5号館1階 5122教室 |
パネリスト | 吉本 哲郎 氏(地元学ネットワーク主宰、水俣病資料館企画アドバイザー) 前田 剛 氏(対馬市しまづくり戦略新政策推進課主任) 阿部 裕志 氏(株式会社巡の環代表取締役、海士町教育委員) 及川 幸彦 氏(日本ユネスコ国内委員会委員、前気仙沼市教育委員会副参事) 池田 満之 氏(岡山ユネスコ協会副会長、岡山市京山地区ESD推進協議会会長) 辻 英之 氏(NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター代表理事、泰阜村総合戦略推進官) 阿部 治(ESD研究所運営委員、社会学部・異文化コミュニケーション研究科教授) |
講演会レポート
阿部 治 教授
近年、地域が抱えるさまざまな課題に向き合うために、全国各地で「地方創生」の取り組みが行なわれていますが、現行の「地方創生」では「人づくり」の重要性について語られることはそう多くはありません。今回のシンポジウムでは、地元学の視点からの講演や行政・自然学校・学校教育・NPO・企業等による地域づくりの事例報告をふまえ、ESD(持続可能な開発のための教育)による地域創生の可能性と、その軸にある「人づくり」の意義について考えを深める機会となりました。
2005年から2014年までの10年間、国連のフラグシッププログラムとして推進されてきたESDは、その啓発期間を終えた後もGAP(グローバル・アクション・プログラム)が採択され、今後も継続的な取り組みが求められています。GAPには、5つの優先行動分野がありますが、その一つに地域コミュニティでのESDの推進が唱えられており、このテーマは、地域づくりを土台とした日本のESDが評価されて導入されました。このように、日本では「地方創生」が始まる以前から、持続可能な社会を目指した地域づくりが各地域で行われていたのです。
2005年から2014年までの10年間、国連のフラグシッププログラムとして推進されてきたESDは、その啓発期間を終えた後もGAP(グローバル・アクション・プログラム)が採択され、今後も継続的な取り組みが求められています。GAPには、5つの優先行動分野がありますが、その一つに地域コミュニティでのESDの推進が唱えられており、このテーマは、地域づくりを土台とした日本のESDが評価されて導入されました。このように、日本では「地方創生」が始まる以前から、持続可能な社会を目指した地域づくりが各地域で行われていたのです。
吉本 哲郎 氏
第一部の基調講演では、地元学の提唱者である吉本哲郎さんより「地元学に見る自分育て」をテーマにお話しをいただきました。水俣病に翻弄され、大きな被害をこうむった水俣市では、「ないものねだりよりも、あるもの探し」を合言葉に、自分たちの足下から地域を見つめ直すことを軸にした地域再生が行われてきました。それは、理論による地域づくりなどではなく、日々の暮らしが営まれる地域の生活の中から生まれた実践に基づく地域づくりであることが分かりました。吉本さんの「答えは足下にある。足下は小さいけれど、そこには大きな世界がある」という言葉から、地域が持つ潜在能力や可能性をあらためて気付かされるとともに、その中で人が学び、創造し、そして成長していくダイナミックな学びの力を感じました。水俣市から生まれた地元学は、今では国内の地域づくりだけでなく、海外にまで広がりを見せ、個々の地域で人と地域が共に成長する機会を生み出しています。
第二部の事例発表では、各地域のフィールドで取り組まれているさまざまな立場の方々に事例報告をいただきました。
長崎県対馬市の前田さんからは、行政の立場から、離島が抱える問題に取り組む上での外部者である地域おこし協力隊や島外からの学生といった「人財」の力を活かした地域づくりについてご紹介いただきました。続いて島根県海士町の阿部さんからは、株式会社巡の環の取り組みを中心に、企業の立場からお話しをいただくとともに、持続可能な社会を実現する際のトップランナーとしての海士町の可能性についても教えていただきました。
宮城県気仙沼市の及川さんからは、学校教育の立場から、国連大学のRCE(ESD地域拠点)の一つである仙台広域圏の事例について、ESDを軸にした東日本大震災からの復興と防災教育についてお話しをいただきました。岡山県岡山市の池田さんからは、市街地での地域づくりの事例として、公民館を拠点としたESD活動についてお話しいただきました。10年以上にわたる京山地区での取り組みが、徐々に広がり、今では市の条例にESDが反映されるようになるなど、地道な積み重ねによる地域の変化の様子が伺えました。最後に、長野県泰阜村の辻さんからは、自然学校の立場から、山村留学を通じた人づくりが結果的に地域づくりへとつながっていったことについてご紹介いただきました。
今回の事例で紹介された地域は、決して華やかな成功事例というわけではなく、今もなお、おのおのに公害や震災の影響、農山村における今日的な問題、市街地でのコミュニティの希薄化など、何かしらの課題や問題を抱えています。しかし、個々の地域が、そのような問題や課題に向き合い、持続可能な地域づくりに日々取り組んでいます。そこに見られる地域づくりには、フォーマル学習、ノンフォーマル学習、インフォーマル学習といったさまざまな学びの形が内包されており、そのどれもが地域の生活に根差した価値創造の積み重ねによるものです。
地域づくりの中で起こる、人の成長、そして地域の成長。今回のシンポジウムでは、それを促す学びこそがESDであり、現行の地方創生に欠けている「人づくり」の部分について改めて考える機会となっただけでなく、ESDが果たす役割や重要性についてたくさんの気付きを得られる機会ともなりました。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。
長崎県対馬市の前田さんからは、行政の立場から、離島が抱える問題に取り組む上での外部者である地域おこし協力隊や島外からの学生といった「人財」の力を活かした地域づくりについてご紹介いただきました。続いて島根県海士町の阿部さんからは、株式会社巡の環の取り組みを中心に、企業の立場からお話しをいただくとともに、持続可能な社会を実現する際のトップランナーとしての海士町の可能性についても教えていただきました。
宮城県気仙沼市の及川さんからは、学校教育の立場から、国連大学のRCE(ESD地域拠点)の一つである仙台広域圏の事例について、ESDを軸にした東日本大震災からの復興と防災教育についてお話しをいただきました。岡山県岡山市の池田さんからは、市街地での地域づくりの事例として、公民館を拠点としたESD活動についてお話しいただきました。10年以上にわたる京山地区での取り組みが、徐々に広がり、今では市の条例にESDが反映されるようになるなど、地道な積み重ねによる地域の変化の様子が伺えました。最後に、長野県泰阜村の辻さんからは、自然学校の立場から、山村留学を通じた人づくりが結果的に地域づくりへとつながっていったことについてご紹介いただきました。
今回の事例で紹介された地域は、決して華やかな成功事例というわけではなく、今もなお、おのおのに公害や震災の影響、農山村における今日的な問題、市街地でのコミュニティの希薄化など、何かしらの課題や問題を抱えています。しかし、個々の地域が、そのような問題や課題に向き合い、持続可能な地域づくりに日々取り組んでいます。そこに見られる地域づくりには、フォーマル学習、ノンフォーマル学習、インフォーマル学習といったさまざまな学びの形が内包されており、そのどれもが地域の生活に根差した価値創造の積み重ねによるものです。
地域づくりの中で起こる、人の成長、そして地域の成長。今回のシンポジウムでは、それを促す学びこそがESDであり、現行の地方創生に欠けている「人づくり」の部分について改めて考える機会となっただけでなく、ESDが果たす役割や重要性についてたくさんの気付きを得られる機会ともなりました。
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