立教学院主催 池上彰氏講演会
第二部「働くこととは何か?」開催レポート

立教大学客員教授 池上 彰 × キャリアセンター部長、経済学部教授 首藤 若菜

2023/09/25

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OVERVIEW

2023年5月27日、ジャーナリストで立教大学客員教授の池上彰氏による講演会を池袋キャンパス タッカーホール講堂にて開催。「働くこととは何か?」というテーマで、キャリアセンター部長を務める首藤若菜経済学部教授との対談形式で行いました。参加者は立教大学の学生約800名。対談の一部をご紹介します。

無我夢中だったNHKでの32年間

首藤 これまでのキャリアについてお聞きしたいのですが、池上先生はNHKでずいぶん長い期間、働いていらっしゃいましたよね。

池上 32年間ですね。最初は島根県の松江放送局に3年、広島県の呉通信部(現・呉支局)で3年、その後東京の社会部で警察関連や凶悪事件専門の記者を経て、気象庁、当時の文部省、宮内庁関連の仕事もしました。平成になってから首都圏のニュースキャスターになり、一番長かったのは「週刊こどもニュース」を担当した11年間。だから一つの職場に長くいるという感覚はなかったですね。

首藤 さまざまな仕事に携わる中で軸となるものが固まっていき、ご自身の成長に結びついていった。このようなイメージでよろしいでしょうか。

池上 とにかく無我夢中でしたね。記者の仕事というのは他の人が知らないことを「ねえ、みんな知らないでしょ、実はこんな話があるんだよ」と言って給料がもらえる仕事なんです。みんなが知らないことを知っていると誰かに言いたくなりますよね。それと同じです。

関心を持ったら、その先は自ら勉強してほしい

首藤 池上先生は「難しい内容を分かりやすく伝える」という新たな分野を開拓したと捉える方が多いと思いますが、どのようにして新境地を切り拓いたのでしょうか?

池上 ニュースキャスターになってから他の記者が書いた原稿を読むようになったのですが、面白い話をつまらなく、分かりづらく書いていると感じました。「読んでいる人が分からない原稿を、視聴者が理解できるわけがないでしょ」と訴えたのです。それともう一つ。アナウンサーではないのでニュースを読む訓練を受けていなかったんです。だから長い文章だと息が続かないんですね。息継ぎができるくらいに文章を短く切っていったら、分かりやすくなることに気付き、原稿を書き直していきました。

首藤 分かりやすく伝えることだけに集中すると、複雑な要素をそぎ落としてしまい、「敵と味方」「善と悪」のような単純で浅い説明になってしまう危険性もあるのではないでしょうか。

池上 おっしゃるとおりです。分かりやすいことは大切ですが、それだけを追求して単純な構造にして、分かった気にさせるのは危険だと思います。私は多くの方にニュースに関心を持ってほしいと思っているので、初歩的なところから伝えています。しかし、それで分かった気になってその先に行こうとしないのは良くありません。私の話を聞いてニュースに関心を持ったら、そこから先は自ら勉強してほしいと思います。

自分がやりたいと思っていることにチャレンジするのが大切

首藤 池上先生は2005年にNHKを退職されてから新しいチャレンジをたくさんされていますが、どのような気持ちで次の一歩を踏み出していったのでしょうか。
池上 何歳になっても取材をしたいという気持ちがありました。多くの報道機関では、記者は40歳くらいになるとデスクという役割になって現場取材ができなくなりますが、NHKでは解説委員になると取材が続けられます。「解説委員になりたい」と希望を出し続けていましたが、ある時、解説委員長から「なれないよ」と言われました。解説委員になるには、例えば労働問題や教育問題といった専門分野を持たなければいけない、君にはそれがないだろうと。確かに私に専門分野はないけれど、物事を分かりやすく解説するという専門性を持っているのではないかと気付いたんです。それが自信になってNHKを早期退職する決断ができました。身軽になって海外取材を続けていたら、民放から「ニュースを分かりやすく解説してくれませんか」と依頼があり、「ニュースを解説する」仕事がスタートしたのです。
首藤 やはり自分が本来やりたいと思っていることにチャレンジするのが大事なんですね。

池上 もう一つ、還暦になった時に、人生がひと回りしたのだから、この先は世の中に恩返ししていこうと考えました。これまで学んだ知識を若い人たちに伝えていきたいと。

首藤 それで立教大学で客員教授として教えてくださっているんですね。

池上 「国際情勢を読み解く」という全学共通科目を担当しています。社会へ恩返しをする思いで、これからも続けていきたいと思っています。

プロフィール

池上 彰(いけがみ あきら)
ジャーナリスト。1950年、長野県松本市生まれ。1973年にNHKへ記者として入局。島根県松江市、広島県呉市での勤務を経て、東京の報道局社会部に転任。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」の“お父さん”を務める。2005年に独立。2016年4月より立教大学客員教授。
首藤 若菜(しゅとう わかな)
立教大学キャリアセンター部長。経済学部教授。専門は労使関係論、女性労働論。博士(学術)。山形大学助教授、日本女子大学准教授などを経て、2011年立教大学に着任。2018年より現職。著書に『雇用か賃金か 日本の選択』(2022年)、ほか。

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