「リベラルアーツ×AI」、次代を拓く
2020年4月 人工知能科学研究科開設へ
2019/05/10
トピックス
OVERVIEW
立教大学は、国内初となる人工知能(A I)に特化した大学院「人工知能科学研究科」(修士課程)を2020年4月に開設します。社会の新たな要請に応える研究・教育の形とは。そして、立教大学ならではのリベラルアーツとAIの融合により、どのような化学反応が生まれるのか。郭洋春総長と当研究科の開設に関わる3人の教員が語り合いました。
立教ならではの強みを生かし AI時代に応えていく
郭:日本は目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0」を提唱しており、その中核をなすのがAIです。しかし現実には、AIを正しく理解し、使いこなせる人材が圧倒的に不足しています。こうした人材を育成し、社会の新たな課題の解決に貢献することは、立教大学が掲げる「普遍的なる真理を探究し、私たちの世界、社会、隣人のために」という教育理念の具現化に他なりません。
Society 5.0
AIやIoT(Internet of Things)により、全ての人やモノ、情報がつながる社会。
AI
Artificial Intelligence。人工知能。推論・判断などの知的な機能を人工的に実現したもの。コンピュータプログラムを指すことが多い。
多様な学部の出身者が集い 文理融合で新たな展開を探る
研究科が扱う領域は文理融合
内山:「機械学習」とは、膨大なデータによって、ソフトウェアを訓練することです。 例えば明日の天気を予測したいとき、過去100年分のデータを調べて100年中90年が晴れだとすると、おそらく晴れだと推定できます。データに潜むパターンや特性を機械に発見させ、未知のデータを予測させるわけです。
ニューラルネットワーク
人間の脳神経系のニューロンを数理モデル化したもの。
育成する人材モデル
内山:その通りです。すでに自然科学の分野ではAIの活用が進んでいますが、同様の動きは今後あらゆる分野に広がっていくでしょう。AI技術を人文・社会科学を含む全ての学術分野に応用していく点が、本研究科が独自の存在感を持つための鍵になっています。そのために、理系だけでなく文系学部を卒業した学生を積極的に迎え入れ、文理を融合させながら各分野に立脚したAIの展開を探っていきたいと考えています。文系出身者でも一から技術を学んでマスターできるよう、学部教育に近い形で講義・演習科目を充実させていく予定です。
郭:文系学部が多い本学だからこそ、AIを架け橋として、今までにない学際的な研究・教育が実現できるのではないかと期待しています。そしてそれは、今後の立教大学の大きな柱となっていくでしょう。
正しいデータとは何か 倫理やモラルが求められる
郭:併せて、産学連携も積極的に推進していく予定です。すでに多くの企業から注目されており、ぜひ一緒にやりたい、協力したいというお声掛けをいただいています。日本や世界をリードする企業とのコラボレーションになるため、今まで以上の連携や成果が期待できると思います。
小澤:そうした社会実装を進める上で重要になるのが「AI ELSI」です。この点について、ご専門である村上先生いかがでしょうか。
村上:AI ELSIは、倫理や法律を踏まえ、いかにして社会に良いAIを持ち込むかという社会実装を実現する上での留意点です。どれだけ良い目的のために技術を活用したとしても、そこには穴があるかもしれません。あるいは、用いるデータ自体に社会的、倫理的な問題がある場合も想定できます。研究科では1年次の必修科目としてAI ELSIを学ぶ科目を設置し、AIを社会で展開する際にどんな問題が生じるのか、正しいデータサイエンスの使い方とはどういうものかを全ての学生に知ってもらいたいと考えています。
データサイエンス
膨大なデータから、意味のある情報・法則・関連性などを導き出し、またその分析手法を研究する学問分野。
AI ELSI
Ethical, Legal, and Social Implications。AI活用における倫理的・法的・社会的な課題。
(左)郭 洋春 総長 (右)小澤 康裕 人工知能科学研究科開設準備室員、経済学部准教授(専門:会計監査・保証、監査におけるAI技術利用)
内山:AI ELSIをはじめ、聞くだけではなかなか実感しづらい部分があるかもしれません。そのため、AI ELSI科目のみならず多くの科目において、企業の実例に学ぶケーススタディを取り入れます。AIは今まさに革新が進んでいる分野ですので、最新の企業や社会の動向とリンクした授業づくりを意識していきます。
時代の先を見据え AIと社会をつなぐ人を
(左)内山 泰伸 人工知能科学研究科開設準備室長、理学部教授(専門:宇宙物理学・応用人工知能) (右)村上 祐子 理学部特任教授(専門:情報哲学)
内山:すでに企業でエンジニアとして働いている方であれば、最新の技術を学んでAIエンジニアとして活躍する道があります。他方では、AIを使った新たな製品やサービス、プロジェクトなどを企画する、AIプランナーやAIプロデューサーも育成したいと考えています。こうした立場の人たちが技術を学ぶことによって、企画・開発の現場における的確な議論や、エンジニアとの円滑なコミュニケーションが可能になるでしょう。
小澤:実際に企業ではAIプランナー、AIプロデューサーが足りないという話を頻繁に聞きますので、ぜひそのニーズに応えていきたいですね。
郭:どのような道に進むとしても、単に技術を習得するだけでなく、「技術を生かして社会に貢献したい」という明確な使命を持った人を育成していきたいと考えています。AIの知識や技術を身に付けて時代の先を見通す力を養い、培った力を日本や世界のために活用できる人を輩出したいと思います。
ホワイトハッカー
コンピュータやネットワークに関する高度な知識や技術とともに、高い倫理観を有し、それを善良な目的に生かす人。
AIをハブに 全学の研究・教育を活性化
全学共通科目(予定)※科目名は仮称
内山:20年4月から数科目を開講する予定で準備を進めています。私は18年度に、受講生の9割以上が文系学生の「宇宙の科学」という全学共通科目を担当しましたが、雑談でAIの話をすると非常に反応が良くて。AIを包括的に扱う科目を設ければ、理系はもちろん文系でも、多くの学生が興味を持つのではないでしょうか。
AIについては何となく理解したつもりになりがちですが、郭総長が話されたように俯瞰的な視野で時代の先を見通すためには、一段階深い理解が必要です。そうした目を養うためにも、しっかり勉強できるよう、力を入れて授業を計画していきます。
郭:大幅に不足しているAI人材を社会に送り出すためには、研究科だけで閉じることなく、いかに全学部の学生に関心を持ってもらえるかが重要です。学部生に「自分の分野でもこんなAIの使い方ができるかもしれない」「もっと学んでみたい」という興味や意欲を持ってもらえるよう、今回の科目開講を嚆矢として、AIを全学に展開する新しい研究・教育システムを構築していきます。
左から、村上祐子、郭洋春、内山泰伸、小澤康裕
内山:経済×AI、スポーツ×AIといったように、さまざまな専門分野とAIを掛け合わせていくためには、立教大学の全学部・全研究科との協働が不可欠です。各分野とAIの融合は学生にとっても新しい学びであり、モチベーションの向上にもつながるのではないでしょうか。
郭:学生は、無限の可能性、無限の創造力を持っています。AIを学び、時代や社会を見通す力を手にすることによって、その創造力を最大限に発揮することができるはずです。ぜひAIを能動的に使いこなし、時代のフロントランナーとして、新たな社会に貢献できる人になってほしいと願っています。
開講科目(予定)
基幹科目
・機械学習
・人工知能概論
・深層学習
・先端科学技術の倫理
・統計モデリングⅠ
・複雑ネットワーク科学
基礎科目
・数理科学概論
・社会情報科学概論
・意思決定の科学
・計算機科学概論
・人工知能の哲学
応用科目
・自然言語処理特論
・人工知能社会実装
・認識技術特論
・脳神経科学特論
・統計モデリングⅡ
・量子情報特論
演習・実習科目
・機械学習演習Ⅰ
・機械学習演習Ⅱ
・深層学習演習Ⅰ
・深層学習演習Ⅱ
・社会モデリング演習
・輪講Ⅰ
・輪講Ⅱ
・データサイエンス実習
研究指導科目
・プロジェクトチーム実習Ⅱ
・特別研究Ⅰ
・特別研究Ⅱ
・特別研究Ⅲ
・修士論文指導演習
その他の情報
【募集定員】63名
【設置場所】池袋キャンパス
【学位】修士(人工知能科学)
【教員数】9名
【開講形式】昼夜開講(平日G5時限(18:30 ~)+土曜日を中心とする)
※本記事は 季刊「立教」248号(2019年5月発行) をもとに再構成したものです。 定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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