田園の中の手作り図書館
「いのち耕す」たかはた文庫の歩み

文学部史学科1年次 山根 喬文さん

2018/02/22

立教生のキャンパスライフ

OVERVIEW

有機栽培農法がまだあまり知られていなかった1980年代から、有機栽培農法で稲作を行ってきた山形県高畠町の人々。農業体験は、日常生活の中で心を耕し、土に学ぶという人々の豊かさに触れ「食」「生命」「環境」などのキーワードを通して私たちの生き方、社会のあり方、共に生きることを考えるプログラムです。参加した学生による、「たかはた文庫」の紹介です。

たかはた文庫は田んぼの真ん中にあり、“晴耕雨読”を体現している

立教大学ボランティアセンター主催のプログラムの一つに「農業体験」というものがある。体験の舞台は、山形県高畠町。この高畠町で30年近くにわたり、私たち学生を受け入れてくださっているのが、上和田有機米生産組合だ。組合では、作物の安全や美味しさを追求し、美しいふるさとを未来につなぐべく、有機栽培農法を続けている。農業体験の5泊6日という限られた時間の中で、高畠の美しさや、組合の方々の温かさと農業に対する信念に触れた多くの学生が、体験プログラム終了後もこの地を訪れている。昨年も、体験終了後4ヵ月の時点で既に2度、延べ19名の学生が高畠を再訪した。私も高畠に魅了された一人で、訪問団に名を連ねた。1度目の訪問は、10月。援農のほか、組合青年部主催の芋煮会へ招待していただいた。2度目は、町が一面銀世界となった12月。この時は、「たかはた文庫」の図書整理を手伝った。ここは、高畠と立教大学の長いつながりの象徴ともいえる施設だ。そして、この施設を多くの方に知ってもらいたいという気持ちもあり、今回この記事を書かせていただいた。

冬は町一面が銀世界に

「たかはた文庫」は、高畠の人々が寄附を募って2010年にオープンした手作りの農村図書館だ。図書館の蔵書の多くは、本学の栗原彬 名誉教授が寄贈されたもので、有機農業に関する文献は勿論、文学全集やマンガに雑誌と幅広いジャンルをそろえている。書籍は現在も追加されており、蔵書は10万点ほどになる予定という。高畠町に住む人、訪れる人を問わず多くの人が有機農業をはじめとする、土と人間のつながりを考える場所になっている。また、本を寄贈された栗原先生は、「高畠という場所や、高畠の人と接触したとき感じたものと、図書館に行って感じたことが響き合ってくれると嬉しい。たかはた文庫は手作りの図書館なので手のぬくもりがある」。さらに「有機農業の本質的な部分はアナログ的。アナログ的な人間の生き方、日々の生きるということの本質的な部分との響き合いを感じてもらえれば」とおっしゃっていた。デジタル化の中であえて紙の本を読むということと、手間がかかってもなお、有機栽培農法を続けることに共通点があるように思えた。すぐに答えや結果を出すことだけがすべてではない。生きていくうえでの本質とは何か、この問いを探す作業の重要性を両者から感じた。

みんなで整理した図書資料を手に(一番左が筆者)

私は、大学に入学してから「あれもしたい、これもしたい…」と逸る気持ちばかりで、一つ一つのことにゆっくり向き合うことがなかったかもしれない。農業体験や「たかはた文庫」訪問によって、そんな生活にも変化が出たと思う。高畠での体験を振り返ると、肌に感じる空気の心地よさや、土を踏みしめる感覚などが驚くほど鮮明に浮かんできた。少しずつ五感をフルに用いて考えられるようになったのかもしれない。今回記事を書く過程で再び高畠の魅力を発見することができた。今後もこの関係を大切にしていきたい。

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